タコの大小
人工干潟の側道を冬枯れ草をピシパシ踏みしめながら奥へ。鬱蒼とした林の前に雑に張り巡らされた黄色いテープと形式ばった行政的な立ち入り禁止看板。
近づいてみると、木陰からふいにガサガサとクーラーボックスを抱えた長靴ジジイがあらわれてビビる。ここ入れるんですか?と聞くと、「うん。いや。なんか。前の台風でえらい曲がってしもとんや」。みると柵の一部が倒壊している。どうみても人為的に入りやすくええ感じに踏み固められている。
思わぬワープホール。初期RPGの行かれへんようにみえてカーソルの向きしだいでは壁の継ぎ目からニュルリと入れるボーナスステージのようである。
柵の外は、快晴の冬空とキラキラ光る海面、鮮やかな赤灯台と突堤がスラリと伸びるボーナスステージであった。大破したソーラーパネル群を背にオッサンが三人、ラジオで競馬中継を鳴らしながら糸を垂らしている。
なんか釣れますか?一人のジジイがコンビニ袋の中に蠢くタコを見せてくれた。おー。タコ。すごいですね。「これは小さいけどな。まだ。小さいわ」と、謙遜なのかなんなのか。こちらはただの通りすがりで「こんな場所でタコが釣れるんですね」と門外漢としてごく素直な感嘆をもらしたまでであるが、ジジイは何度も「まだ小さい、これは、もっとデカなる」と、自分はこんなところで満足する男ではないとでも言いたげであった。
しらんねん。
タコの大小はしらんねん。
せめて袋から出して見せてくれ。
大きさがわからんねん。
(2019 ニューヒロバ画報 不音通信 vol.13)

