ヘンな話
ヘンな話ですが・・・この後に続く話が本当にヘンだったためしがない。ヘンな話にはわりと期待してしまうので、「いやまぁヘンな話、」と聞こえたら、背筋を伸ばし耳を澄ます。どんなヘンな話をしてくれるのか。どれぐらいのヘンさなのか。ところがたいていは期待はずれで、それまでの話をふまえたうえのことで、飛躍も逸脱もない、せいぜい少し俗っぽく喩えなおすぐらいのことである。
ぜんぜんヘンじゃない。
人によっては「いわば」ぐらいの感じで使う人もいる。ヘンな話をする意志すら感じられない。フツーやん、と落胆するほどでもないが、ただ「ヘンな話、」と高らかに宣言したあの気勢は何処へ消えたのかと思う。
ヘンな話とはいったい何か。
かつてバイト先の社員のおじさんに松崎町で700円のランチをおごってもらいながら、実際にくらったことのある印象的なヘンな話。
「めっちゃ昔、京都でな、尼さんの死骸が遺棄されてたんや。そこに一匹の犬がトコトコ来てな、尼さんの死骸の腹を一口食い破ったんやて。
ほんならな、食いちぎった腹から炎が吹き出して、みるみるうちに尼さんは焼けて失くなってしもたんやて」
・・・みごとにヘンな話であった。
得体の知れぬ白身魚のフライを齧りながら聞くべき話でないことは確かであるが、まさに看板に偽りなしの、高純度の「ヘンな話」と言ってよいだろう。
評価ポイントは、①直前の話にまつわっていない ②なぜ自分に語られたのか分からない ③別におもろくもない ④いま話すことでもない ⑤リアクションの正解がない ⑥誰が良くて誰が悪いのか分からない ⑦荒唐無稽 ⑧内容が軽くキモい ⑨話し手がべつに笑ってない ⑩これ夢かと思う
僕は長い沈黙のあと何も返事しないのも悪い気がして「それいつですか?」と聞くと、「江戸とか・・室町とか・・ちゃう」と悪びれる様子もなくオッサンは答えた。トータル、なんやねんその話。良質な「ヘンな話」への唯一のリアクションは「なんやその話!」しかない。それはある意味で「ごちそうさま」の気持ちも含まれている。「ヘンな話」をもっとたくさん聞きたい。