speedometer. / ASANOYA BOOKS / AUTORA

JUN-TAKAYAMA.TXT

一九八〇

一九八〇年。小学生どうしで隣町のプラモ屋までチャリで遠出した。たしかヒトラー人形(敬礼ポーズ)付きのメルセデスベンツのプラモデルを探しに行ったのだった。大阪と奈良の境、国鉄関西線の線路脇の道端で、花紀・岡八クローンの酒焼けした土方の男たちが五六人集って、子供の背丈ほどある大きな樽のようなものを囲んで、抑制の効いた発気と合いの手のようなものがあたりに弾けていた。僕たちはただごとならぬ雰囲気に、目一杯の立ちこぎで急接近し樽をそばで覗き込んだ。

樽の中では黒い鶏が物凄い勢いで喧嘩をしていた。軍鶏(シャモ)だった。片方は羽根を飛び散らして嘴で相手に襲いかかり、もう片方は首あたりに、黒い羽根の上からでも分かるほど大量に出血していた。生まれて初めて闘鶏をみるにはあまりにも特等席すぎて、同行したYくんはそのまま脇のドブにゲロを吐いていた。Yくんはボンボンなのでハンカチを持っていた。知らない町、路上にドデカい樽、樽の縁に千円札、土方の熱気、そしてなにより命の危険を感じ全身に生を漲らせた、筋肉質の二羽の軍鶏の抜けた羽根と赤黒い血、鉄の鉤のように鋭い爪。僕は初めて見るシャモの闘鶏にもドン引きしつつ、あまりに都心からディレイのかかりすぎた時代感覚にタイムスリップのような混乱をおぼえた。

一九八〇年。YMO「テクノポリス」、闘鶏。クラフトワーク「人間解体」、闘鶏。ウェルカムトゥプラスチックス、闘鶏。イアンカーティス自決、闘鶏。狂い咲きサンダーロード、闘鶏。

(2019 ニューヒロバ画報 不音通信 vol.12

,

JUN TAKAYAMA
90年代よりspeedometer.として活動、6作のアルバムをリリース。イルリメとのユニット「SPDILL」、中納良恵(ego-wrappin’)、山中透(ex.ダムタイプ)とのコラボレーションから、二階堂和美の編曲、ビッグポルノ楽曲担当、市川準監督作品への楽曲提供など。2010年からAUTORA(山本アキヲ+高山純+砂十島NANI+森雄大)としても2作のアルバムをリリース。アパレルブランド「mizuiro-ind」のコレクションに楽曲提供、台湾・蔡健雅のアルバムに編曲者として参加。2015年から、slomosとしてのソロ活動を開始。2017年、slomos album "slomos" (felicity)をリリース、2018年、shrine.jpより"CEE / DEE"e.p.をリリース。2019年秋よりspeedometer.の活動再開。2020年には、浦朋恵・metomeと三者共作での南海エキゾ怪盤「Dark, Tropical.」(P-VINE)をリリース、2021年、鴨田潤主宰のJUN RECORDSより17年ぶりのミニアルバムをリリース。2023には20年ぶりのフルアルバム「afterglow -残照- 」 を鴨田潤(イルリメ)のJUN RECORDSよりリリース。はじのさと ASANOYA BOOKS 店主。